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10年夢blog 第3回 [GBA作品(小説)]

10年夢blog 第3回

 閉塞感打破には行動あるのみ。今、俺は切にそう思う。そうでなくとも俺は出足が鈍くてバスに乗り遅れることを重ねてきたのだから。
 問題は俺がスタートダッシュを早めたときに限って、目的地が見えていないミステリーツアーになりがちなことである。いや、悶々と見た夢を反芻してそれに振り回されて一日を過ごすよりは、何かを書いて情報を世界に垂れ流して、じゃなかった、発信して気を紛らせられるのなら今よりは楽しくなるのは分かっているのだけど。
 blogが何なのかぐらい分かっている。だがテーマが決まっていなかった。猛の言葉を聞いて帰宅した後に色々なblogを見ては見たけれど、自分にできるものは何なのだろう。
 育児日記?のろけ話?対象がなければ書けませぬ。
 政治を語る?国を憂う?俺の芸風だと書く方も読む方も苦痛なモノができて続かないだろう。
 大切なことは続くこと。だから単純に「日記」などと言ったら多分続かないからパスにした。我が輩の自分史において、今まで日記と付くようなものが長く続いたことがない。
 小学校の夏休み、朝顔の観察日記だって終盤は「茎が何cm伸びた」の繰り返しに、花の咲いた枯れたがちょっと加わるだけになって終わった。担任の下から返ってきた日記には紅い字で「ながさのほかのこともみるくせをつけましょう」とあったのを覚えている。くせはあったはずだけど、それは怠け癖だったものな。
 結局ピンと来る題材が見つからないので、参考書を求めに行った。電池を買いに行くついでに寄った家電量販店にて、パソコンやネット関連の専門書コーナーを訪ねてみた。
 さあはじめようblogとかあなたにもできるblogとかこうすればアファリエイトで稼げるblogとか色々な題名があってよくわからん。
 分かっているよ、俺の場合大事なのは、技法よりも、何を書くのか、だってことは。そして、それを始める一歩を踏み出すこと、だってことも。つまりどうすれば始められるんだろう。
 …何冊か立ち読みをして、それなりのものを手に取ってみようとしたら、脇の方の店員さんが目に入った。
 何だか50代前半くらいのサラリーマン風の人が、表計算ソフトの賢い使い方についての教本を求めている。別にそのおじさんに対しハア貴君も同じ穴の狢ですかと感じたわけではなくて、その人に対応している女性店員が気になったのだ。それとて別に自分のタイプだったからというわけではない。
 似ているのだ。
 誰に似ているのかは忘れたが、似ている。誰だったか。丸顔で、眉がはっきりしていて、黒目がちで。かといってじろじろ見ていたら怪しまれる。
 あ、おっさんが説明に納得して離れていった。そしてその店員さんがレジに戻っていった。気になるついでにあそこで買おうじゃないのさ。そう思っているうちに手に取った本は結局どういうところに納得して選んだものかわからず。ああ本末転倒。
 俺の前に並んでいた人に応対するところを、その背中越しに見てみる。えー、高校時代の同級生だったっけか?いや大学か?中学か?それとも他の何かか?この前猛と話したように大学を出てからももう10年経っているわけだから、社会に出てからの記憶すら妖しくなっている。
 でも多分同い年であるような気がする。これは直感なのか記憶として残っていてのことなのかは分からないが。でも何歳だとかいうことよりも、その面影に記憶があるのが重要なんだよなあ。そう思って商品を扱う手元を見れば、ほっそりとした指が目に付いた。指輪はしていない。未婚かな。いや、何を見ているんだ、俺はストーカーか。
 でもモヤモヤが解決されない頭は目を観察に走らせる。名札には「よしの」と書いてある。よしの…吉野?そんな知り合いいたかな。ますます思い出せないような。
「次にお待ちのお客様、こちらにどうぞー」
 左向こうからトーンの高い声に呼ばれた。俺は結局別の女性店員の待つレジに並んだ。普段の基準だとこちらの方が好みというルックスをしていたけれど、今日の恋人はあなたではないんだ。
「お客様、ポイントカードはお持ちでしょうか」
 と言われて我に返るまで、俺は誰かに似たよしのさん推定30歳前後を見ていた。

 帰り道にスーパーに寄り、果物売り場で突然俺は思い出した。
「柿本、そう、柿本だ!」
 なんだいそうだよ大学の吹奏楽部でテナーサックス吹いていた柿本留美だよ。俺や猛のお仲間じゃないか!
 それにしてもあまり変わっていないな。あの面影を覚えているのも、彼女の雰囲気が変わっていないからなんだろう。俺と同い歳だから31の筈なのだが。どうなっているんだ。世間を転がっておっさんのように加工されてきた俺よりもずっと若々しいじゃないのさ。いい人生送ってきたんだろうな。
 ここまで来て、はたと気がついた。
 名札にあったのは柿本じゃなくてよしの、吉野(推定)という名前ではないか。
 何でだろう、単なる人違いという結論に心が向かわない。名字が変わった説の方が優勢になっている。
 そしてまた、はたと気がついた。昨夜見た夢はこうだったのを覚えている。
「昔憧れた野球選手と同じ飛行機に乗っていたのに、数日経っての新聞記事でそれを知って悔しがる修治」
 知っている人とのニアミスが予見されていたんだ。きっとそうなんだ。人違いだと思えないのはそのせいなんだ。

(続く)


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